三浦一馬 一問一答
王子ホールマガジン Vol.33 より まだ20代前半ながらすでに多方面での活躍が光るバンドネオン奏者、三浦一馬。「ソロからオーケストラまで、まだまだ開拓する余地がたくさんある」と彼自身が語るように、王子ホールでもこの冬、多彩な編成で多彩な音楽を披露してくれる予定です。 |
三浦一馬(バンドネオン) 1990年生まれ。小松亮太のもとで10歳よりバンドネオンを始める。2006年、自作CDの売上から渡航費を捻出してアルゼンチンに渡りネストル・マルコーニに師事、現在に至るまで教えを受けている。07年デビュー・コンサートを開催。08年10月、イタリアで開催された第33回国際ピアソラ・コンクールで日本人初、史上最年少で準優勝を果たす。09年、デビュー・アルバム『タンゴ・スイート』をリリース。既成の概念にとらわれない意欲的な取り組みや、バンドネオンの可能性を追求する真摯かつ精力的な活動ぶりが10年9月NHK「トップランナー」に取り上げられ、反響を呼ぶ。ラジオ出演も多数。11年11月、セカンド・アルバム『ブエノスアイレスの四季』をリリース予定。 |
Q 三浦さんのご両親はピアニストだそうですが、小さい時からピアノをやってらしたのですか? 三浦一馬 小さい頃からピアノで遊んでいましたけど、親は他の生徒さんを教えるばかりで、自分が教わることははありませんでした。むしろ放任主義だったので、ピアノだけでなく、家にあるレコードプレイヤーなどの機械をいじったり、分解したりして楽しんでいました。 Q 家ではどんな音楽を聴いてらしたのですか? 三浦一馬 昔からよく聴くのはアルトゥール・ルービンシュタインのピアノですね。とくにショパンのマズルカ集は好きでした。曲名を知る前から何度も聴いていたし、今でもiPodの中に入れています。あとはオスカー・ピーターソンのアルバム。クラシックもジャズも関係なしに何でも聴いていました。 Q そのなかで10歳のときにバンドネオンと出会ったそうですね。 三浦一馬 バンドネオンが紹介されているのをテレビで見たのがきっかけです。最初に印象に残ったのはあの独特のカタチなんです。ボタンがたくさん並んでいて、蛇腹があって……機械好きの感性に訴えるものがあったんでしょうかね(笑)。そしてアコーディオンとも違うし、ちょっとオーボエのような管楽器にも通じるところがあって、どことなく物悲しい独特の音色。10歳ながらに惹かれるところがありました。この番組はビデオにとっていたので何度も繰り返し見て、やがて実際に触る機会が訪れたんです。 Q 初めてバンドネオンを触ってみて、どんな感覚でしたか? 三浦一馬 「感覚」というより「感動」でした。テレビで見て憧れていた楽器を実際に手にして弾いているという、そのこと自体に感動しました。まだ小さかったので「けっこう大きくて重いな」とも感じましたけど(笑)。自分にとってバンドネオンは遊びの延長でした。ランダムに並んでいるボタンを順番に押して音を探っていったりとか、ゲーム感覚でいじっていたので楽しかったです。 Q タンゴという音楽についてはどう感じていらしたのですか? 三浦一馬 自分はかなり小さい頃からステージで演奏する機会に恵まれていまして、「小さいのにタンゴなんて大人の音楽をよく弾けるわね」なんて感想を言ってくださる方もいました。でも当時から漠然と、「僕は僕の感じるままに弾いているだけなんだから、大人とか子どもとかは関係ないんじゃないかな?」と感じていました。10歳の頃にタンゴという音楽に魅せられ、バンドネオンという楽器を始めた。その時点で大人の音楽という意識は持っていませんでした。最近は小中学校で演奏させていただく機会もあって、やはりタンゴを演奏するんですけど、みんなすごく真剣に、キラキラした眼差しで聴いてくれます。そういう光景を見ると、自分がそうだったように、年齢に関係なく伝わるものはあるのだと感じます。 Q これまで様々なジャンルの方と共演されていますが、今年の5月には別府のアルゲリッチ音楽祭で巨匠クラスの演奏家とステージを共にされましたね。 三浦一馬 自分にとってマルタ・アルゲリッチさんは半ば伝説的な大ピアニストです。その人と同じステージに立って間近で演奏するわけですから、それだけでも肌で感じるものがあって、本当に貴重な経験でした。楽器に関係なくいろいろな音楽家からいろいろなことを学べるのだなということを、このところ実感しています。 Q 王子ホールの主催公演には来年の春までに3回ご出演いただくことになっていますが、それぞれのコンサートについてお話しください。まずは12月2日の「ニーノ・ロータ生誕100年ライブ」、これは三浦さんが中心になって展開する企画ですね。 三浦一馬 自分はフェリーニ映画の世代ではありませんけれども、そんな僕でさえ、有名な「道」をはじめニーノ・ロータの映画音楽はどこかで耳にしています。彼の作品はイタリアの土着の風景というか、そういったイメージを想起させる力があって、これは自分の幼少期の記憶にも重なりますし、また自分がバンドネオンで表現したいと思うものにも重なるんです。 Q 12月19日のクリスマス・コンサートは篠崎“まろ”史紀さんとの共演になります。 三浦一馬 まず、まろさんと共演させていただけることを非常に嬉しく思っています。このコンサートはタンゴの基本編成でありながら、タンゴ以外にも映画音楽やクリスマス・メドレーをやります。クラシック室内楽の環境でのバンドネオンの可能性も垣間見えるコンサートになると思います。ぜひ気軽に楽しんでいただきたいですね。 Q そして来年2月にチェロの宮田 大さんとのコンサートが予定されています。 三浦一馬 チェロもバンドネオンもメロディと伴奏の両方ができる楽器ですので、どちらかの役割に限定されずに、様々な可能性を試せるのではと思います。バンドネオンは楽器としての歴史も短いし、使われてきたジャンルも限られていますので、まだまだ開拓をする余地は大いにあります。コンパクトなのにピアノにひけをとらない音量が出ますし、和音も出せるし、オーケストラ楽器としても十分に使える。そうした可能性を探る意味でも、さまざまな編成のコラボレーションを楽しみにしています。 Q おっしゃるように開拓する余地がありながら、バンドネオンという楽器は絶対数が限られていますよね。 三浦一馬 これは深刻な問題です! バンドネオンは現在製造されていないうえに、アルゼンチンでバンドネオン保護法というものが可決されまして、製造されて40年以上経つ楽器は国外に持ち出せなくなってしまったんです。ですから入手が本当に難しい。バンドネオンが生まれたドイツでは古い製造技術を復興させようという試みが続いていて、これには期待したいところです。いずれにしても現在あるバンドネオンは、アンティークとして飾っておくのではなく、コンディションの良いものはぜひ演奏家に提供していただきたいですね。なにしろ死活問題ですから! (文・構成:柴田泰正 協力:テレビマンユニオン 写真:横田敦史) |
【公演情報】 王子ホール・クリスマス・スペシャル・コンサート 銀座ぶらっとコンサート#58 |
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