アレクサンダー・クリッヒェル
3つのアルバム、1つのプログラム
王子ホールマガジン Vol.48 より 有能な若手アーティストを紹介するtransitシリーズ、7月の第5回公演にはドイツのピアニスト、アレクサンダー・クリッヒェルが登場します。22歳でソニー・クラシカルと専属契約を結び、数々の名門オーケストラでコンチェルト・デビューを果たした俊英です。プログラムはこれまでに自身が録音した3枚のアルバムのエッセンスを凝縮したもの。本人によるプログラムの手引きをご覧ください。 |
アレクサンダー・クリッヒェル(ピアノ) 1989年、ハンブルク生まれ。6歳でピアノを始める。15歳よりハンブルク音楽・演劇大学で学び、2007年からはハノーファー音楽・演劇大学でウラディミール・クライネフに師事、現在はロンドン王立音楽大学にてドミトリー・アレクセーエフに師事している。11年にソニー・クラシカルと専属契約を結び、13年にソニーからのデビュー盤である『春の夜~メンデルスゾーン、シューベルト、リスト、シューマン:ピアノ作品集』をリリースした。このCDは批評家・聴衆の双方から非常に高い評価を得ており、ドイツのCDチャートにも、すぐさまランクインした。同年、エコークラシック賞の「ニューカマー・オブ・ジ・イヤー」を受賞し、ガラ・コンサートの模様はドイツのZDFテレビで放送された。最新のCDは、ソニー・クラシカルからの2枚目となる『ショパン、フンメル、モーツァルト』(ヴォイチェフ・ライスキ指揮/ポーランド室内フィルハーモニー管弦楽団)のほか、自身のデビュー録音である『洞察~クリッヒェル・プレイズ・リスト』がテロス・ミュージックよりリリースされた。これまでに、ベルリンのフィルハーモニーおよびコンツェルトハウス、ハンブルク・ライスハレ、ミュンヘンのヘラクレス・ザール、ケルン・フィルハーモニーなどで演奏している。14/15シーズンは、チューリッヒ・トーンハレ、ウィーン・コンツェルトハウス、シュトゥットガルトのリーダーハレへ初登場する。著名な音楽祭にも登場しており、これまでに、ピアノ・オ・ジャコバン、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン、ラインガウ、メクレンブルク・フォアポンメルン、キッシンゲンの夏等の音楽祭に出演している。オーケストラとは、ジョナサン・ノット指揮バンベルク交響楽団、ミヒャエル・ザンデルリンク指揮ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、アレクサンダー・マルコヴィッチ指揮ブレーメン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン・シュターツカペレ室内管弦楽団、ルツェルン音楽祭弦楽合奏団等と共演している。科学・製薬企業であるドイツ・バイエル社の文化プログラム“stART programme”に選ばれ、同社の文化芸術部門からスポンサーとして支援を受けている。音楽での成功以外にも、他分野での活動も行っており、ウィリアム・スターン協会より、特に才能のある数学者として認定を受け、現在ハンブルク大学の数学科の聴講生でもある。さらに、数学オリンピックのほか、ドイツ政府が毎年開催する連邦外国語コンクールや、生物学の分野での研究活動におけるドイツ連邦コンクールなどでも入賞を果たしている。 |
今回王子ホールで演奏するプログラムは私にとって特別なものであり、このようなプログラムを演奏するのは初めてのことです。リサイタルでは、これまでにソニー・クラシカルで録音した3枚のアルバムから、アイデアやレパートリーを取り入れています。 私の恩師であり、死の直前まで指導してくださったウラジミール・クライネフ教授に捧げたデビュー・アルバムでは、ピアノ・ソロをメインに録音しています。クライネフ教授からは重要なことを数多く学びましたが、その一つは、ピアノで歌うということです。ピアノは打楽器の一種ですが、人の声で歌われているかのような、美しく自然な音を作り出すことを学びました。今回はリストの編曲によるシューベルトの最も有名な歌曲のうち、《セレナード》と《魔王》の2曲を演奏します。 2枚目のアルバムでは、モーツァルトとショパンを組み合わせました。幼少時代より、ショパンは私にとってロマン派のモーツァルトのような存在でしたし、今でもその考えは変わりません。彼らが作り出すメロディーは、言葉では表現できないほど天才的なものです。また、両作曲家とも、私的で人の心を揺さぶる作品を残していますが、表現者にはある種の特別な気高さや、ほとんど触れることができないような音を作り出すことを要求します。モーツァルトのソナタと、ショパンの「ドン・ジョヴァンニ」の《お手をどうぞ》による変奏曲を演奏します。 最新アルバムには、ラフマニノフをレコーディングしました。ピアノを始めた当初よりロシア人ピアニストに教わり、大学ではロシアの巨匠ウラジミール・クライネフ氏とドミトリー・アレクセーエフ氏の下で勉強した私にとって、ラフマニノフやロシア音楽はとても大切なものです。ラフマニノフの「楽興の時」は、人が表現でき得る感情すべてを描写するものだと思います。この作曲家は、氷のような冷淡さから湯気が立つほどの熱気までを表現するのです。第2番のミステリアスな、ほとんど不愉快にも感じられる不安感にしても、第3番に見られる嘆きや終わりなき悲しみ、また第4番の嵐の海の巨大な波にしてみても、これら6つの作品すべてが激しい感情を内包しており、演奏していても、聴いていても私たちはこの作品に夢中になります。これこそがこの曲の独特な美しさなのです。 (構成:柴田泰正 写真:Uwe Arens |
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