クリスティアン・ゲルハーヘル
~マーラーの二夜~
2011年
12月5日(月) 19:00開演
12月7日(水) 19:00開演
全席指定 各日7,000円、2公演セット券13,000円
※2公演セット券は王子ホールチケットセンター電話予約のみ取り扱い
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クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン) |
2008年1月の終りに、ゲルハーヘルはシューベルトの三大歌曲集全曲演奏会のために王子ホールにやって来ました。盟友ゲロルト・フーバーと描くシューベルトの世界は、柔らかさと強さを併せ持ち、繊細で美しい詩情に満ちて、正統的なリートの継承者としての存在を奥ゆかしく明らかにしたのです。遠くない月日での再会を約し、シューマン・イヤーが過ぎ首を長くして待つ日々。マーラー・イヤーの今年、3年ぶりに待望の再登場です。師走の喧騒を忘れて二夜、深奥なるマーラーの歌曲の世界へ。第1夜は「さすらう若人の歌」「子どもの魔法の角笛」「亡き子をしのぶ歌」より。第2夜は「大地の歌」のピアノ版抜粋、「5つのリュッケルトの歌」を含む「最後の7つの歌」全曲をお贈りします。
■《大地の歌》ピアノ版の魅力
私は、グスタフ・マーラー《大地の歌》のピアノ稿を、マーラーの声楽曲というものの質を考慮するための意義深い例だと考えています。《大地の歌》ピアノ稿はもちろんオーケストラ稿の原曲に基づいていますが、パルティチェル(総譜下書き)のような、オーケストラ総譜を簡素化したものではありません。もっとも、完全にできあがった作品というわけでもなく、ピアニストが演奏に困難なほど多くの音が書き込まれています。詩句だけでなく、音楽面でもオーケストラ稿とは多くの違いがあります。
それにもかかわらず、私はこのピアノ稿を非常に好んで歌っています。ピアノ稿の演奏では、当然ながら音楽の説得力には僅かながらも制限が加わってしまうのですが、まるで語るがごとくに操られる、マーラーの熟達のオーケストレーションを「聴かせない」ことによって、感じることができるものがある、と考えたからです。むしろ、ピアノ稿の演奏によって、そのモノクロームな音色から多くの利点が得られ、その音色によって、歌唱にも音色の自由の余地が生まれます。マーラーのようなオーケストラ歌曲の大家であっても、結局最後までピアノ歌曲からは離れませんでした。ほとんどのピアノ用編曲は自らの手によるものという事実を見ても、これは自明のことでしょう。もともと「芸術歌曲」とは、ピアノ歌曲のことを意味していたのですから。
■マーラーの歌曲について
私にとってグスタフ・マーラーの歌曲とは、ドイツ芸術歌曲の完成形であり、そして終着点です。というのも、マーラーの歌曲は、まさにロマン派という時代を生きた天才が生み出した創造物です。歌曲の実質的な創始者であるシューベルトが、ちょうど古典派との境に位置しているのと同様に、歌曲の歴史を締めくくったマーラーは近現代の音楽との境に位置しています。シューベルトは詩の世界へ近づくために、詩に音楽で注釈を入れるような手法を用いました。ヴォルフはこのやり方を完璧なものへと高め、詩の世界に潜む深奥を音楽的に高め、詩そのものを正当に評価したのです。
しかし、グスタフ・マーラーはその次元を超越して見せました。とりわけ《角笛》歌曲集、そして《大地の歌》において、詩が観念的に結晶したものとして音楽を扱うことによって、単に音楽で情景を描写する、という限界を突破したのです。マーラーは詩というものを、その先駆者たちとは全く異なるやり方で扱いました。詩の登場人物の生き様を輝かせるために、抽象的な傾向を有する付曲の方法を編み出したのです。つまり、説明的に内容を描写する音楽の放棄でした。王のために戦争で責任をとる兵隊であれ、腹を空かせた人、貧者、子供であれ、脱走兵であれ、不条理な死を遂げ、虐げられている登場人物がこの方法で描かれました。
互いにそりが合わない男と女が別れを告げる場面。歌曲集《少年の不思議な角笛》では、こんなユーモラスな場面も、感動を誘う場面と併置されています。歌い手たる自分は、このような場面、すなわち20世紀における「偉大なる死」に対してマーラーが向けた眼差しを歌で描くため、その準備をあらかじめ施しておくことになります。そしてこのような場面こそ、いまなおその数を増やし続けているマーラーの聴き手に、この作曲家の知性のありようを教えてくれるのです。
――クリスティアン・ゲルハーヘル
(訳:広瀬大介 協力:カメラータ・トウキョウ)
<第1夜 12/5>
グスタフ・マーラー:
「さすらう若人の歌」
恋人の婚礼の日/朝に野原を往けば/ぼくは燃える刃を抱え/恋人の碧い二つの瞳
「子どもの魔法の角笛」より
だれがこの歌を作ったのだろう/夏に小鳥はかわり/私は緑の森を楽しく歩いた
いたずらな子をしかりつけるために/ラインの伝説/番兵の夜の歌
********** 休憩 **********
「子どもの魔法の角笛」より
塔の中の囚われびとの歌/この世の生活/シュトラスブルクの砦の上で/麗しきトランペットが鳴り響くのは
「亡き子をしのぶ歌」
いま太陽は輝き昇る/なぜそんなに暗い眼差しなのか、今にしてよくわかる/
おまえのお母さんが/ふと私は思う、あの子たちはちょっと出かけたいだけなのだと/
こんな嵐に
<第2夜 12/7>
グスタフ・マーラー:
「大地の歌」より 第2楽章 秋に寂しきもの
「7つの最新歌曲(最後の7つの歌)」
死せる鼓手/少年鼓手/私の歌をのぞき見しないで/私は快い香りを吸いこんだ/
真夜中に/美しさをあなたが愛するなら/私はこの世に捨てられて
********** 休憩 **********
「大地の歌」より 第6楽章 告別
(c)Alexander Basta |
クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン) ミュンヘン国立音楽大学オペラ・スクールにおいて、パウル・クーエンとライムンド・グリュンバッハに師事。ピアノのゲロルト・フーバーと共に、ヘルムート・ドイチュのリート・クラスおよびディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、エリザベート・シュワルツコップ、インゲ・ボルクのマスタークラスを受講した。その間、自身もミュンヘン音楽大学で教鞭をとる。1998年に医学博士号を修得。同年、パリ、ニューヨークのインターナショナル・プロ・ムジチスで第1位に選ばれた。続いてニューヨークのカネーギー・ホール(チェンバー・ホール)でデビューを飾り、以降、ウィグモア・ホール、フランクフルト・アルテ・オーパー、アムステルダム・コンセルトヘボウ、パリ・オルセー美術館、ベルリン・フィルハーモニー、ウィーン・コンツェルトハウス、ムジークフェラインなどの主要ホールに出演し、ラトル、アーノンクール、ハイティンク、ブーレーズ、ティーレマン、ブロムシュテット、シャイー、ヤンソンス、ハーディング、ナガノなどの指揮者とともに世界の主要オーケストラと共演。オペラでは2006年ザルツブルク音楽祭で、リッカルド・ムーティ指揮の下パパゲーノを歌い、これはデッカよりDVDがリリースされた。ヘンツェの「ホンブルクの王子」をアン・デア・ウィーン劇場で、「タンホイザー」のヴォルフラムをマドリッド歌劇場、ウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、ロンドンのコヴェントガーデン王立歌劇場で歌った。10~11年は、バイエルン国立歌劇場で、モーツァルト「フィガロの結婚」の伯爵を歌いシーズンをスタートさせた。この先には、フランクフルト歌劇場で「こうもり」のアイゼンシュタイン、「ペレアスとメリザンド」のペレアス、トゥールーズ市立歌劇場で「ドン・カルロ」のポーザ公爵が予定されている。シューベルトの作品を収めたCD『夕暮れの情景』は06年にグラモフォン賞を、また同年のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭では北ドイツ放送音楽賞を受賞。09年にはシューマンの作品を収めたCD『メランコリー』で、エコー・クラシック賞年間最優秀歌手とBBC音楽賞、更に、ラインガウ音楽賞も受賞。続く10年には、マーラーのアルバムがMIDEMクラシック賞年間最優秀歌手、オランダのエディソン・クラシック賞、ドイツ・レコード批評家賞年間最優秀賞を受賞した。 |
(c)Albert Lindmeier |
ゲロルト・フーバー(ピアノ) ドイツ、バイエルン州に生まれる。ミュンヘン国立音楽大学に進み、ピアノをフリーデマン・ベルガー、リート伴奏法をヘルムート・ドイチュに師事、その後、ベルリンのディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのリート・クラスで学んだ。1998年にクリスティアン・ゲルハーヘルと共にパリ・ニューヨーク・インターナショナル・プロ・ムジチス賞を受賞し、パリとニューヨークのカーネギーホールでコンサートを行った。リート伴奏者として高い評価を得ており、ラインガウ音楽祭をはじめ名のある音楽祭に参加している。最近では自身の音楽祭「芸術音楽」を創設、2006年にミュンヘンのニンフェンブルク城で初めて開催されたこの音楽祭は大きな注目を集めた。ゲルハーヘルの他にも多くのアーティストの伴奏を務め、またアルテミス・カルテットやラインホルト・フリードリッヒの室内楽のパートナーとしても演奏会を行っている。ベートーヴェンの作品を収録したソロCDの他に、クリスティアン・ゲルハーヘルと共に録音した数々の素晴らしいCDがある。彼らのCD「冬の旅」と「美しき水車小屋の娘」はそれぞれエコー・クラシック賞をリート部門で受賞し、シューマンの作品を収めたCD「夕べの情景」は06年にグラモフォン賞を受賞した。翌年からも次々と歌曲集のCDをリリース。ゲルハーヘルとのシューマン「メランコリー」はBBC音楽賞を、09年にリリースしたマーラーの歌曲集はドイツ・レコード批評家賞をはじめ複数の賞を受賞。最近、ヴォルフのイタリア歌曲集をソニーに、モイツァ・エルトマンとクリスティアン・ゲルハーヘルで録音をした。 |