王子ホールマガジン 連載
クラシック・リスナーに贈る
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王子ホールマガジン Vol.36 より |
「なき王女のためのパヴァーヌ」The L.A.4 バド・シャンク(as, fl) ローリンド・アルメイダ(g) 1976年10月15、16日 |
ジャズに限らず「オールスター夢の共演」という企画は心躍るもの。ふだんは顔を合わせることのない大物たちが一夜限り一堂に会し、一つの音楽を作り上げる光景は、しばしば演奏の成否を超えて聴く者に感動を与えてくれます。 L.A.4は1974年、当時のアメリカ西海岸を代表するジャズマン4人が集まり結成されたユニットです。アルト・サックスのバド・シャンクは、そのクール&インテリジェントなブロウ・スタイルで、チェット・ベイカーやジェリー・マリガンとともにウェストコースト・ジャズの全盛期を彩ったスター・プレイヤー。またドラムのシェリー・マンも、モダン・ジャズの黎明期から多くのセッションに参加し、繊細さと大胆さを併せ持ったパフォーマンスで白人ジャズマンの地位向上に大きく貢献した大立て者です。そしてベースのレイ・ブラウンは東西海岸を股にかけその名をとどろかせた斯界の第一人者。堅実でありながら懐の深い彼のプレイは、まさにジャズ・ベース最良のモデルといっても過言ではないでしょう。 では、そんな4人が集まって生み出されるのはどういう音楽か。ひと言でいうなら、それは、「エレガントなラテン・テイストを伴った室内楽的ジャズ」ということになるでしょう。ウェストコースト・ジャズの持ち味である趣味の良いアレンジと、洗練の極みともいうべきインタープレイから成るその音楽は、あるいはジャズに崇高な精神性やエモーションの発露、濃厚なブルース・フィーリングを求める人には物足りなく感じられるかもしれません。しかしだからといってL.A.4のジャズが音楽的な野心や誠実さに欠けるわけではまったくなく、それどころか、意匠を凝らし、技術の粋を尽くしながら、誰もが楽しめるジャズを作り出そうとするその態度には、オールスター・グループにはあるまじき(笑)真摯ささえ感じられます。 |
著者紹介 藤本史昭/1961年生まれ。上智大学文学部国文学科卒。写真家・ジャズ評論家として活動。「ジャズ・ジャパン」誌ディスク・レビュアー。共著・執筆協力に『ブルーノートの名盤』(Gakken)、『菊地成孔セレクション~ロックとフォークのない20世紀』(Gakken)、『ジャズ名盤ベスト1000』(学研M文庫)などがある。王子ホールの舞台写真の多くは氏の撮影によるもの。 |
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