王子ホールマガジン 連載
クラシック・リスナーに贈る
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王子ホールマガジン Vol.43 より |
「クールの誕生」マイルス・デイヴィス マイルス・デイヴィス(tp) ギル・エヴァンス(arr) 1949年1月、4月/1950年3月 ニューヨークで録音 |
今回ご紹介する『クールの誕生』は、ジャズCDのガイドブックには必ず顔を出す、いってみれば定番中の定番です。ところが実はこれ、評論家のあいだでは「評判ばかり高くて全然おもしろくない」「いや、これは長いジャズ史の中でも屈指の傑作だ」と賛否両論喧しい、なかなか厄介なブツなのですね。それはなぜかといえば……。 1940年代後半、ジャズのスタイルは、チャーリー・パーカーが創始したビバップが主流となりつつありました。当時20歳を過ぎたばかりだったマイルス・デイヴィスもすぐにこのスタイルにハマってしまい、パーカーを追いかけて故郷セントルイスからニューヨークへ。ほどなく憧れのアイドルのバンドに加入することとなります。 では「クールの誕生」の何が新しかったのか。先に述べたように、マイルスがここで目指したのはアンサンブルの充実でしたが、しかしアンサンブルというだけならそれをメインにしたジャズはそれ以前にもたくさんありました。たとえば1930年代のスイングエイジに人気を博したビッグバンド。これなどはまさにアンサンブルが主体のジャズだったわけですから。 さて、ではなぜそういう作品に対して「つまらない」という意見が後を絶たないのでしょうか。もっとも大きな理由は、この音楽にジャズの生命線ともいえる即興演奏の含有率が低いから、だと僕は思います。即興がないわけではありません。しかしここにあらわれるそれは、ほとんどアンサンブルの一部となって溶け込んでいるため、スリリングなアドリブを求める人には物足りなく感じられるのではないでしょうか。そういう意味ではこの作品、管弦楽や室内楽など「あらかじめ書かれた音の合奏」に個性を見出すことに慣れ親しんだクラシック・ファンのほうが抵抗なく楽しめるかもしれません。 |
著者紹介 藤本史昭/1961年生まれ。上智大学文学部国文学科卒。写真家・ジャズ評論家として活動。「ジャズ・ジャパン」誌ディスク・レビュアー。共著・執筆協力に『ブルーノートの名盤』(Gakken)、『菊地成孔セレクション~ロックとフォークのない20世紀』(Gakken)、『ジャズ名盤ベスト1000』(学研M文庫)などがある。王子ホールの舞台写真の多くは氏の撮影によるもの。 |
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