王子ホールマガジン 連載
ぶらっとの顔 Vol.4
鈴木大介
王子ホールマガジン Vol.48 より 様々なアーティストがホストを務めるランチタイム・シリーズ「銀座ぶらっとコンサート」。この夏から始まる「映画と音楽」では年に2回、人気ギタリストの鈴木大介が映画の街・銀座にふさわしいプログラムを届けてくれることになりました。映画音楽のアルバムを6作も発表しているシネフィルだけに、期待が持てます―― |
鈴木大介(ギター) 横浜生まれ。ギターを市村員章、福田進一、尾尻雅弘に、作曲を川上哲夫、中島良史に師事。またザルツブルク・ モーツァルテウム音楽院にてエリオット・フィスク、ホアキン・クレルチに師事。マリア・カナルス国際コンクール第3位、アレッサンドリア市国際ギター・コンクール優勝など数々のコンクールで受賞。武満 徹をはじめ多くの作曲家による新作を初演しているほか、美術館で展示作品のテーマに即したプログラムをプロデュースするなど話題を呼んでいる。新鮮な解釈によるアルバム制作も高い評価を受けており、「カタロニア讃歌~鳥の歌/禁じられた遊び~」は2005年度芸術祭優秀賞(レコード部門)を受賞。また映画音楽カヴァーアルバム「キネマ楽園」シリーズを6作品発表している。第10回出光音楽賞、平成17度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。洗足学園音楽大学客員教授。 |
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Q 新たに「ぶらっとの顔」になっていただく鈴木大介さんですが、これまでに平井千絵さんの「ぴあのの部屋」で2回、それと加藤昌則さんの「Café アルハンブラ」でゲストとしてご出演いただきました。そこで拝見した大介さんのパーソナリティと、シリーズ・アルバム『キネマ楽園』のコンセプトが合致して「映画と音楽」という新たなコンサート・シリーズが生まれました。 鈴木大介(以下「鈴木」) ギターにはベートーヴェンやブラームスのような大作曲家による曲がないので、19世紀のギタリストはオペラの有名なアリアをギター・ソロで弾けるように編曲していました。有名なところではジュリアーニという人が《ロッシーニアーナ》という15分ぐらいの曲を6曲書いています。その他にもオペラの有名アリアを主題にした変奏曲も数限りなくある。《椿姫の主題によるファンタジー》という有名作品もあるし、ハンガリーのメルツという作曲家/ギタリストは、その当時ブームになったオペラの縮小版を「オペラ・レビュー」と称してたくさん書いていました。でもこのメルツのオペラ・レビューは完全に家庭向けで、演奏技術がさほど高くなくても弾けるように書かれている。当時はレコードもテレビもラジオもないから、そういう時代に手軽にオペラの旋律を楽しもうという人にとって、ギターは重宝な楽器だったんです。今の時代で考えると、多くの人が知っているのはオペラではなくて映画ですよね。だからそれをやってみよう、映画音楽による「ポプリ」を作りたいと思っていました。 Q それが『キネマ楽園』というシリーズ・アルバムに結実したわけですね。映画への愛について伺いますが、小さいころからお好きだったんですか? 鈴木 子供のころからわりとよく映画館は行っていましたね。演奏会で武満 徹さんの曲をやるときなどは映画音楽がよく出てきますし、それで詳しくなったという点もあります。それに『キネマ楽園』を始める前から映画のサウンドトラックに参加することもありましたから、身近には感じていました。 Q 小さいころから観てきた映画のサウンドトラックで、特に心に残っているものはありますか? 鈴木 最初は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」ですね。中学2年生ぐらいのときで、エンニオ・モリコーネの音楽が好きになって、レコードを買って聴いていました。映画を観るときにサウンドトラックを意識するようになったのはそれからですね。それと、自宅に「シネマミュージック・セット」みたいなレコードのセットがあって、その中ではマンシーニのレコードが好きでしたね。 Q 王子ホールでのシリーズではテーマをいろいろと設けています。第1回は「映画の旅」。 鈴木 銀座は映画の街ですからね。「007」でも「80日間世界一周」でも、映画館の大きなスクリーンでいろいろな都市の風景を見るのってすごくいい体験ですよね。あまり考えなくても右脳に働きかけるというか、インパクトがある。そういう意味で「映画の旅」というのは自分の中で大事で、映画本来の魅力が感じられるテーマだと思います。 Q 王子ホールのステージでは、そういったシーンの効果をギター1本で感じさせなければなりません。しかも1人でトークとチューニングをしながらですから、大変かと思いますが。 鈴木 ギター漫談にならないように注意します(笑)。コンサートでは、来てくださるお客さんの中にあるドラマと、僕が現実にそこで弾く音楽、生の音などがミックスされた効果が生まれると思います。もちろんコンサートですから、単純に楽器の音だとか、派手なテクニックだとか、CDとはまた違ったコンサートならではのアピールができるでしょうね。 Q 今のところ全部ソロでやる予定ですか? 鈴木 当面はそうですね。でもたとえば『キネマ楽園 4 ザ・ファンタジー・オブ・ニーノ・ロータ』ではドラムの芳垣安洋さんやベースの吉野弘志さんといったジャズの大先輩とご一緒しました。そのときにジュリアーニがロッシーニを編曲したように、ニーノ・ロータの「8 1/2」とかをギターデュオにしてみようと思って、作ってみたら、想像以上によかったんですね。これはいいぞと思って、その後は何度か多重録音しています。だから先々はデュオでやることがあるかもしれないですね。 Q クラシックベースでやってこられたわけですが、ジャズ・ミュージシャンとのセッションはいかがでしたか? 鈴木 以前、カサンドラ・ウィルソンのサポート・ギタリストをしていたブランドン・ロスという人と、ツトム・タケイシというベーシストと僕の3人で、武満さんの映画音楽だけをひたすらフリージャズのように演奏するというタワーレコードの企画がありました。そのときにニューヨークでしばらくジャズに浸ったことで、すごく自由を得ました。その前は、アドリブで自分があらかじめ用意しておいたセールスポイントをどれだけ見せられるかという、腕自慢的なやりかたばかり考えていたんです。けれど彼らに、そのとき起きている音楽の中で自分に必要なことだけをやればいいのだと教わりました。ブランドンなんかは「場がそれを求めるなら自分は一音も弾かない」という考え方の人でした。クラシックの技術を見せるとか、コンチェルトでカッコいいフレーズを決めるとか、そういうことをやってきた自分が、完全に彼のような考えになることはないと思います。でもそういった世界に浸ったことで、誰か勝手なことをやっている人がいても、客席でお客さんが物音を立てても、それで自分の音楽が影響されることはなく、共存できるようになりました。客席で思い切り携帯電話が鳴っていても平然と弾いているので驚かれることがありますよ。それはもう鳥が鳴いているようなものと感じて弾いています(笑)。だから共演者が自分の音に呼応して思いもよらない反応をしてきたときなんか、環境音どころではない面白さがありますね。 Q 次の『キネマ楽園』のテーマは決まっているのですか? 鈴木 次は7作目。今度は戦争映画がテーマです。採りあげる映画がどれも長くてなかなか見終わらないので大変です(笑)。戦争映画の使用される楽曲のうち、第1次大戦や第2次大戦時にSP盤でみんなが聴いていた歌を入れようと考えています。《リリー・マルレーン》などは特に有名ですが、当時はクラシックのテノール歌手もジャズの歌手も同じ歌をうたっていました。そういう曲がたくさんあるので、2、3分のミニアチュールとしてきちんとギター曲に編曲して録音しようかなと。 Q 大介さんはわりと歌への思い入れがあるように感じます。 鈴木 歌は好きですね。ジャズのスタンダードも好きだしカンツォーネも好きだし。歌だと声の色だったり歌詞だったりするけれど、自分はその部分をギターのハーモニーとか音色で表現しなければならない。メンデルスゾーンは「無言歌」を書きましたが、あれはよく言ったもので、言葉にあたる部分をどうやって音楽的な要素で満たすかというのは、自分がギターを弾くうえで大事にしている部分なんです。 (文・構成:柴田泰正 写真:横田敦史 協力:KAJIMOTO) |
【公演情報】 銀座ぶらっとコンサート#99 銀座ぶらっとコンサート#106 |
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