インタビュー ステラ・トリオ

王子ホールマガジン Vol.54 より N響コンサートマスター篠崎“まろ”史紀とつくる看板コンサート「MAROワールド」は2004年にスタート。その後MAROワールドの常連メンバーである鈴木康浩を核とした「お昼の名曲サロン」シリーズが2009年に始まり、こちらもたいへんな人気公演となりました。そして2017年、25周年を迎える王子ホールで、文字通り未来の星となる若手奏者3人による新たな室内楽シリーズが始まります。ステラ・トリオ。小林壱成(ヴァイオリン)、伊東 裕(チェロ)、入江一雄(ピアノ)によるアンサンブルです―― |
2015年、第84回日本音楽コンクール第3位ほか上位入賞多数。第19回松方ホール音楽賞、2015かさま音楽賞受賞。2016年度ロームミュージックファンデーション奨学生、10年度(財)ヤマハ音楽奨学生。(株)日本ヴァイオリンより名器特別貸与の助成を受けている。これまでに小島秀夫、三戸泰雄、大谷康子、清水高師、ペーター・コムロ―シュ、ピエール・アモイヤル、ヘルヴィッヒ・ツァックに、現在、篠崎史紀に師事。東京藝術大学在学中。 |
奈良県出身。6歳よりチェロを始める。数々のジュニアコンクールでの優勝を経て、2008年、日本音楽コンクール チェロ部門第1位、及び徳永賞受賞。サントリーホール室内楽アカデミー第3期フェロー。平成26年度青山財団奨学生。これまでに斎藤建寛、向山佳絵子、山崎伸子、中木健二に師事。東京藝術大学在学中に福島賞、安宅賞、アカンサス賞受賞。現在同大学院修士課程に在籍。16年10月よりザルツブルク・モーツァルテウムに留学中。 |
東京藝術大学・同大学院を首席で卒業・修了。2008年、第77回日本音楽コンクールピアノ部門第1位。同コンクール入賞を機に多岐にわたる演奏活動を開始。これまでに栗原ひろみ、國谷尊之、故・竹島悠紀子、ガブリエル・タッキーノ、植田克己、上野 真、野島 稔に指導を受ける。12/13年度公益財団法人ロームミュージックファンデーション、15年度文化庁より助成を受け、モスクワ音楽院研究科に在籍。エリソ・ヴィルサラーゼに指導を受け、16年7月帰国。 |
――まずは「ステラ・トリオ」という名前について伺います。いくつか名前の候補があったと思うのですが、これに決まった理由は? 入江一雄(以下「入江」) 候補はたくさんあったよね。 小林壱成(以下「小林」) 最初はみんなで思いつくものをどんどん出して、絞っていきました。 伊東 裕(以下「伊東」) 最初に壱成くんが「スター・アライアンス」という案を出したのが印象に残っています。 ――航空業界からクレームが来そうですね。 小林 それがあるから使えませんでした。カッコいいと思ったんですけど。 ――「スター」とか「星」とかいうイメージはもとからあったのですね。 小林 これからのクラシック界を担っていく「スター」にならなきゃ……って僕は思っているので(笑)。 入江 僕は30年間生きてきてそこまで思ったことがない(笑)。でも壱成くんの意気込みには触発されますね! ――もとは王子ホールの星野プロデューサーと篠崎“まろ”さんが、将来を期待できる若手の室内楽奏者を集めたいという気持ちで演奏家を探していて、この3人に白羽の矢が立ったわけです。みなさん一人ひとりと仕掛け人であるまろさんとの繋がりについて教えていただけますか。 入江 僕は実家が熊本でして、まろさんが熊本で演奏されたときにお目にかかりました。まろさんより半年ほど前に清水和音さんにお会いして、和音さんから紹介していただいたかたちです。熊本では5、6分ほどお話ししただけですが、その2週間後ぐらいに東京で和音さんとまろさんとお食事をする機会がありました。その後しばらくたって、忘れたころにまろさんからメールをいただきまして、それがこの間のMAROワールド(2016年4月7日)だったんです。共演するのは初めてでしたし、たいへんなプレッシャーを感じたので、ものすごく練習しましたよ! 恐る恐るコンサートに臨んだわけですが、いざ接してみると、年齢差があっても1人の人間として対等に接してくださるし、練習のときからとても楽しく、いい時間を過ごすことができました。 ――では壱成くんは?
――小3にとっては大変な経験でしょうね。 小林 ジュニアオーケストラでは多くの人たちと一緒に演奏して、コンサートマスターまでやらせていただきました。そのときもどうやったら周りがついてくるかというようなことを、とても自然に教えてくださいました。「こうしろ、ああしろ」ではなくて、いいタイミングで「ちょっとこうしてみたら」と提案してくださるんです。まろさんにはいろいろな場所に引っ張って行っていただいて、今では門下として藝大で週1回レッスンを受けています。 ――伊東くんとまろさんの出会いは? 伊東 僕は2年前ですね。N響のチェロの市 寛也さんがまろさんと共演する公演があったのですが、市さんの都合が合わなくて、市さんの紹介で代わりに僕が共演させていただけることになったんです。「じゃあその前に食事でも」という話になり、食事に連れて行っていただきました。雑誌やテレビでまろさんの姿は見ていたけれど、実際にお会いすると体格も大きいしオーラも半端なくて、ろくに喋れなかったので、ひたすら焼肉をおいしくいただきました(笑)。 ――MAROワールドに出演していかがでしたか?
――壱成くんはMAROカンパニーの一員として「ふたつの四季」(2016年1月11、12日)に出演しましたね。 小林 子供の頃の自分には、大人のアンサンブルは練習もみっちりと、失礼な言い方かもしれないけど『仕事』としてやっているのかな、というイメージがありました。でも実際にまろさんのリハーサルに出てみると全然そんなことはなくて、遊んでいるんですよね。先ほどお話しした北九州のツアーのときに、それがよくわかって衝撃を受けました。王子ホールのMAROカンパニー公演も、すごく温かい空気で楽しめました。 ――緊張はしなかったですか? 小林 緊張はしましたよ。ムチャぶりが飛んでくるので。 ――とは言いつつもソロのときなどはガンガン前に出て活躍しましたよね。 小林 そのぐらい出ていかないと喜んでもらえないかなと思って(笑)。 入江 やはり「音楽界を引っ張っていく」と言えるだけあってすごいな!
――トリオでシリーズをやらないかというオファーを受けて、どんな気持ちでしたか? 入江 伊東くんは一緒に演奏をしたことはなかったけれど、日本音楽コンクールで同期だったので、すごく上手だということは昔から知っていました。壱成くんの良さについてはまろさんから聞いていたし、今はとにかく楽しみという気持ちだけですね。僕は2人よりちょっと年上ですけど、これからを引っ張っていく人たちと一緒に密度の濃い時間を過ごせるのだから、自分にも鞭をうってやっていかないと(笑)。 ――壱成くんと伊東くんは何度も共演しているんですよね? 伊東 弦楽八重奏、弦楽四重奏、弦楽三重奏などいろんな編成で共演しています。でもピアノ三重奏は初めてなんですよ。壱成くんは枠にとらわれない自由さがあって、しかもアンサンブルで共演者にけしかけるのが上手。入江さんは日本音楽コンクールの後に各地で演奏する機会があって、そのときにご一緒しました。演奏はもうカンペキ(笑)。僕は大学生になってから上京したんですが、食事に連れて行ってくれたり、とてもお世話になっています。そんなふたりと一緒に自分が何をできるか、楽しみにしています。 ――4月のデビュー公演ではチャイコフスキーの《偉大な芸術家の思い出に》を演奏しますが、この曲に関するイメージは?
入江 僕は一度だけ、モスクワ留学する前に演奏しました。昔はロシア音楽は好きだったもののチャイコフスキーにはあまり共感できず、ラフマニノフとかプロコフィエフが好きでした。それがロシアに行ってはじめてチャイコフスキーの良さがわかった気がします。近代ロシア音楽の功労者なのだと実感して、それからチャイコフスキーのほとんどの曲が好きになりました。そうした心境の変化があったので、ここで演奏する機会を得て嬉しく思います。 小林 ピアノ・トリオってこれまでそんなにやってこなかったんですが、知名度も高いし、自分の好きな作品だし、弾き甲斐のある曲なので、今から燃えています! ――当面は年に1回、ここで集まって演奏していくわけですが、これをやりたいというビジョンはありますか? 小林 ピアノ・トリオの作品をいろいろ漁ったんですが、けっこういい曲があるんですね。弦楽四重奏以上に好きかもしれないと感じる曲もあったりして。まろさんの影響というわけではないんですが、アレンスキーのトリオなんかもいいなぁと。カッコいい曲ですよね。 入江 いきなりアレンスキーが出てくるあたり、しっかりまろさんイズムを継いでいるよ(笑)。 小林 やばい、師匠を越えなきゃ! 伊東 ロシアつながりでいうとショスタコーヴィチの1番も好きですね。初期の短い作品ですが、彼のチェロ・ソナタにも通じるものがあって、美しい部分とひねくれた部分が同居している。ショスタコの第1番、第2番を並べるというのも楽しそうですね。お客さんが来てくれるかどうかは別の話ですけど(笑)。 ――ちなみに「ぶらっとコンサート」のシリーズはトークも入りますが、そのへんの経験はどうですか?
伊東 僕はトークに苦手意識があったんですが、まろさんのトークを間近で見たことがいい経験になったし、お客さんの反応を誘うような言葉とか、こっそりパクって少しずつ蓄積していきたいなと思っています(笑)。 小林 僕もけっこう喋る機会が多くて、司会系は得意かもしれないです。東京でやったアウトリーチのときには、司会をやってずっと喋っていました。なので僕からガンガン入江くんと伊東くんにムチャブリしていきたいなと思います。 入江 おう、演奏だけじゃなくて、そういうところでもやり合おう! 『仕掛け人』が語るステラ・トリオ――なぜこの3人なのか。 篠崎“まろ”史紀 星野桃子(王子ホール プロデューサー) MAROワールドという企画を立ち上げたときから、これに続くものを残そうという中長期計画をもっていました。若い演奏家を育てて、そのうちそれぞれの企画を独立させるつもりだったのです。そうして始まったやす(鈴木康浩)を中心とした「お昼の名曲サロン」もすっかり定着しました。そこでさらに先を担う優秀な若手の演奏家を、ということでこのステラ・トリオが生まれました。 (文・構成:柴田泰正 写真:藤本史昭) |
【公演情報】 銀座ぶらっとコンサート#120 |