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インタビュー ポール・ルイス
シューベルト歌曲について

王子ホールマガジン Vol.45 より

2011年から2年をかけて行った全5回のチクルスに続き、12月にマーク・パドモアとともにシューベルトの三大歌曲集を披露するポール・ルイス。コンチェルトでの来日時にシューベルト歌曲について話を訊きました――

ポール・ルイス(ピアノ)

リヴァプール生まれ。ロンドンのギルドホール音楽演劇学校を経てアルフレッド・ブレンデルに教えを受ける。多くのコンクールで成功した後、BBCの「新世代アーティスト」に選ばれる。近年では欧米のみならずアジアでも広く活躍している。

 

――初めて聴いたシューベルトの歌曲集は何でしたか?

ポール・ルイス(以下「ルイス」) 初めて聴いたのはペーター・シュライヤーとアンドラーシュ・シフの録音による「美しき水車屋の娘」です。18歳ぐらいでしたね。曲としての力に圧倒されたのを憶えています。この作品を通してリートの世界を知るようになったとも言えますので、個人的に思い入れのある作品です。その後もシューマンやベートーヴェンの歌曲を聴いていきましたが、自分で演奏するのであれば「水車屋」をやりたいとずっと思っていて、学生のときから作品集の一部を歌手と合わせたりしていました。それからずっと後になって、2002年ぐらいにフランクフルト・オペラで行われた歌曲の舞台化プロジェクトに参加しました。演奏の回数も多かったし、歌詞について多くを学ぶことができた。こうしたことを通じて徐々に下地を作っていったわけです。

――マーク・パドモアと最初に共演したのはいつでしたか?

ルイス 最初に共演したのは2007年だったと思います。「美しき水車屋の娘」をスコットランドのパースで行われていたシューベルト音楽祭で演奏しました。感触が良かったのでまた共演しようという話になりました。

――初共演のときはどのような準備をしたのですか?

ルイス まずは作品をざっと通して演奏して、あとは内容についてたくさん話し合いました。主にテキストについてですね。そこに語られるストーリーについて、そしてその内容がどう音楽と関わっているかについて。ピアニストとしては声で表現されることをピアノでも表現する、つまりピアノで「語る」ことを意識しています。あるときは第二の歌い手のように、またあるときは小さな室内合奏団のように楽器を響かせながら、たとえば「水車屋」における川の流れをはじめとする様々なイメージを想起させる役割があります。個人的にはピアノで一番出したくないのは「ピアノの音」なんです(笑)。

――パドモアとは何回ぐらいチクルスを演奏しましたか?

ルイス 憶えていませんけれど、この7年でかなりの回数をやりました。2週間ほど前にも前半に「水の上の精霊の歌」(至高の作品です!)、後半に「水車屋」というプログラミングで共演しました。この「水車屋」は3年ほど共演の機会がなかったんですが、少しリハーサルをしただけでバチッとはまった。以前とは違う感触ではあるけれど、何回も共演してきたことで相手を信頼し、自由に表現できる。楽しいことです。

――最終日の「白鳥の歌」のプログラムではベートーヴェンの歌曲をカップリングしました。その意図は?

ルイス 「遥かなる恋人に寄す」はよく「白鳥の歌」と一緒に演奏されますね。共通するテーマは『あこがれ』です。ベートーヴェンの「遥かなる恋人に寄す」には遠くにいる恋人への想いが描かれていますし、「白鳥の歌」の最後に置かれたシューベルトの最後の歌曲《鳩の便り》にも『あこがれ(Sehnsucht)』という言葉が出てくる。こうして共通のテーマを置くことで一貫性が出ると思いました。

――三大歌曲集を続けて演奏することがもたらす困難は? そしてそこから得られる喜びとは?

ルイス 物理的にも情緒的にも負担が大きいことは確かですね。私たち演奏家はエモーショナルな音楽を日々演奏しているわけで、そういった作品の力に『壊される』リスクも常に背負っています。そのぐらい入り込まなくては演奏ができないから。けれどそこからもたらされる喜びはいつだって大きい。私たちは人間性の根幹に迫る作品にいつも触れているわけです。存在はしているけれど言葉で説明しづらい感情――たとえ絶望や苦悶や死への衝動であっても、それは人間であることのあかしであり、人生の一部です。人間の暗い側面を描いた音楽でも、人を豊かにすることができる。人生の辛い時期にある人でも、こうした作品に触れることでかえって心が安らぐことがあります。絶望の中にあってもかすかな希望がみえたり、前に進むきっかけになったりもする。そうした表現ができるのは、音楽家冥利に尽きるといえます。

(文・構成:柴田泰正 写真:藤本史昭 協力:ユーラシック)

【公演情報】
マーク・パドモア&ポール・ルイス
~シューベルト三大歌曲集全曲演奏会~

2014年
12月4日(木) 19:00開演(18:00開場)
12月5日(金) 19:00開演(18:00開場)完売
12月7日(日) 15:00開演(14:00開場)
全席指定 各日7,000円

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