望月哲也 一問一答
王子ホールマガジン Vol.27 より 2009年に自身のシリーズ公演「Wanderer」をスタートさせた望月哲也。3年に及ぶウィーン留学の集大成として披露したシューベルト『水車屋の娘』に続く2回目のリサイタルでは、マーラー、ヴォルフ、R.シュトラウスの手によるドイツリートを特集。5月の公演を前に、リサイタルへ向けての想 いを伺いました。 |
望月哲也(テノール) 東京藝術大学、同大学院オペラ科修了。文化庁派遣芸術家在外研修員としてウィーンに留学、2009年6月までウィーン国立音楽大学研究課程リート・ オラトリオ科にて研鑽を積んだ。日伊声楽コンコルソ等で次々に好成績を収め、06年東京二期会・ハンブルク州立歌劇場共同制作『皇帝ティトの慈悲』タイトルロールとして国際的評価を得るなど、オペラ界を担う逸材として注目されている。宗教曲でも着実にキャリアを築くほか、マイスター・ミュージックより2点 のCDをリリース。二期会会員。 |
Q まずは近況をお聞かせください。ウィーン留学がひと段落ついて、今後は日本をベースに活動していくのですよね? 望月哲也 はい。ですが今後も1年に1回ないし2回は必ずヨーロッパへ行くようにします。やはり向こうの空気とか感覚 は忘れないでおきたいんです。日本では幸いスケジュールが埋まっていますけど、そのぶん次から次へと色々な用事に追われてしまいます。それがヨーロッパに行くと、まとまった時間をとれるようになる。5月のリサイタルの前は1ヶ月ほど時間をつくってヨーロッパへ行き、向こうの先生の指導を受けつつある程度歌い込んで、音楽的な仕上げをしてきます。いろんなものにとらわれず、静かに集中する時間を持ちたいんです。 |
Q ヨーロッパ留学を経て表現のうえで変化はありましたか? 望月哲也 ヨーロッパでオペラを観たり、外国の演出家と仕事をさせてもらったことで大きな影響を受けました。たとえば P.コンヴィチュニーさんには、日本で歌う場合、イタリア語であれドイツ語であれ、多くの日本人のお客さんはその言葉をすぐに理解できない、それをどうやって伝えるか――という点を指摘されました。それからは身体だけでなく目の表情にまで気を配って、しっかり細かく見せることを心がけるようになりました。あとは歌い込むことで言葉を自分の中に吸収すれば、その言葉を伴った動きや感情表現ができるようになる。結構時間がかかる作業だとは思うんですけど、消化して体に入れてしまえば自然な表現が出てきます。 |
Q リサイタルのプログラムについて具体的にお話しいただけますか? 望月哲也 マーラーとヴォルフとR.シュトラウスという、3年半ウィーンにいた中でかかわりを強くした作曲家の作品を 集めています。今回はあえてユーモラスな曲を多く選んでいるので、その面白みを感じていただけたらいいなと思います。ロバがいななく声だとか、カッコウの鳴き声だとか。ヴォルフの《狩人》という作品は、狩人が痴話喧嘩をしてそのウサ晴らしに狩りに出かけるという話なんですけど、真暗闇のなかで銃声が鳴り響 く様子など、ピアノをうまく使って表現しています。すごく色彩豊かな、短い時間の中でもドラマがはっきりと描かれているいい曲ばかりですよ。 |
Q 歌詞をご自分で訳されますけど、言葉を移す作業というのは望月さんにとって大きな意味があるのでしょうか? 望月哲也 対訳は大事にしていきたいですね。昨年の「Wanderer Vol.1」でとりあげたシューベルトの『水車屋の娘』なんかはたくさんのCDが出ているし、日本語の対訳もいろんな方がやっていらっしゃる。でもそういったものを読んでも、やはり自分に響かない言葉って出てくるんですよね。できるだけそれを平たい言葉で、とにかく分かりやすい内容にしたいと思いまし た。今回ももちろん自分で訳すつもりです。リサイタルに来てくださる方に素直に受け取ってもらえるような対訳にしたいですね。それが一番です。僕は訳詞家 ではないので、そんなに素晴らしいものを書こうとも思っていないし、きっと批判される方もいると思うんです。でもそれと同時に「とても分かりやすかった」 と言ってくださる方もいるので、そちらを大事にしたいなと思います。前回の『水車屋』は60分がひとつのお話になっています。訳すときは1曲ずつとりあげて、1節ずつやっていくんですけど、その時の気分で言葉も変わってきたりするんです。そのバランスを全体として整えていくのが難しかった。今回はある程度 1曲ずつ独立しているし、作曲家ごとにセクション分けはしていますけど、前回のような一貫したテーマ性は持たせていません。 |
Q ピアノの河原さんとはいつごろから準備に入るのですか? 望月哲也 これから少しずつ打ち合わせをしていって、という状態です。河原さんはリートやオペラに限らずどんな作品で も、とりあえずこちらの意図を受け止めてくださる。そのなかでお互いが持っている通例にないようなアイディアをぶつけあって、それを提案していけるのはい いですね。「こうあるべきだ」というのをやってもあまり面白くないかなと。自分の声や河原さんのピアノの技術を活かすとこの曲でこんなことができるのか、というのを見つけて、それをステージにかけられると楽しいですよね。それがアンサンブルというものだと思います。 |
Q 同世代のピアニストで一緒にやって面白かった人を挙げるとすると? 望月哲也 この間トッパンホールのニューイヤーコンサートで河村尚子さんとシューマンの歌曲を2曲演奏したんです。最 初に合わせたときに、彼女があまりに歌ってくれるものだから圧倒されそうになったんですけど(笑)。彼女自身リートが好きだと言っていたし、ドイツ在住な ので言葉もよくわかったうえで弾いてくださるから、面白かったですね。刺激的でした。 |
Q いままでリートやオペラや宗教曲をやってきて、今後どの部分を深めていきたいというのはありますか? 望月哲也 的を絞るのはすごく難しいですね。どの国のどういう作品にも良さがあるし、それぞれに声への負担のかかり方 があります。そのなかで純粋に素晴らしいと思う作品があまりに多くて(笑)。今ほぼ初めてといっていいぐらいにプッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』を全曲 通してやっているんですが、やりだすと「やはりこれもいいな」と思えるし、5月のリサイタルでとりあげるマーラーなどのドイツリートも素晴らしくいい。今 はまだ若いので色々なものにチャレンジしたいなと思います。 (文・構成:柴田泰正 写真:藤本史昭 協力:二期会21) |
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