インタビュー
イザベル・ファウスト、ジャン=ギアン・ケラス&アレクサンドル・メルニコフ
~スターとスタジオとステージと~
王子ホールマガジン Vol.56 より イザベル・ファウスト、ジャン=ギアン・ケラス、アレクサンドル・メルニコフ――この3人に共通するのは、いずれも人気・実力ともに今日を代表する器楽奏者であるという点。これについては改めてご説明するまでもないだろう。それともうひとつ、彼らはハルモニア・ムンディ・レーベルから多数のアルバムをリリースしており、軒並み非常に高い評価を得ているのだ。 |
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン) クリストフ・ポッペンとデネス・ジグモンディに師事。1987年レオポルト・モーツァルト・コンクール、93年パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクール優勝。古楽器からモダンまであらゆる演奏スタイルを確立しており、そのレパートリーはバッハからリゲティ、メシアン、ジョリヴェといった前衛的作品まで網羅している。オーケストラはルツェルン祝祭管、ベルリン・フィルをはじめ、ロンドン・フィル、バイエルン放響、ミュンヘン・フィル、パリ管、チェコ・フィル、ボストン響、WDRケルン放響、BBC響、マーラー室内管、N響、都響、新日本フィル等と、指揮者はアバド、ヤンソンス、ハーディング、ブリュッヘン、ビエロフラーヴェク、ホリガー、アントニーニ等と共演。室内楽演奏家としても数々の音楽祭に出演し、フォークト、シュタイアー、テツラフ、ペルガメンシコフ、イッサーリス、C.ハーゲン等と共演している。使用楽器はストラディヴァリウス「スリーピング・ビューティ」(1704年製)。 |
ジャン=ギアン・ケラス(チェロ) モントリオール生まれ。リヨン国立高等音楽院、フライブルク音楽大学、ジュリアード音楽院でチェロを学ぶ。1990年より2001年までアンサンブル・アンテルコンタンポランのソロ・チェロ奏者を務める。レパートリーはバロックから現代まで多岐にわたり、ウィーン楽友協会、コンセルトヘボウ、ウィグモアホール、カーネギーホール等でリサイタルを行う。また、フィルハーモニア管、パリ管、ゲヴァントハウス管、BBC響、フィラデルフィア管、N響、読響、東響を始めとするオーケストラ、ブリュッヘン、ビエロフラーヴェク、スラットキン、D.スターン、ノリントンを含む指揮者と共演。優れた室内楽奏者としても知られ、02年にヴァイトハース、ゼペック、ツィンマーマンとアルカント・カルテットを結成。演奏楽器は1696年ジョフレド・カッパ製(メセナ・ミュジカル・ソシエテ・ジェネラルより貸与)。02年グレン・グールド国際プロテジェ賞受賞。ドイツ・フライブルク音楽大学教授。 |
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ) モスクワ生まれ。16歳で、シューマン国際コンクール、エリザベート王妃国際音楽コンクール、エネスコ国際コンクールと矢継ぎ早に上位入賞を果たす。モスクワ音楽院でレフ・ナウモフキに師事。1992年シュレスヴィッヒ・ホルシュタイン音楽祭でリヒテルの代役として演奏し、熱狂的な拍手を贈られた。その後、ロストロポーヴィチ、バシュメット、グットマン、ヴィルサラーゼ等と共演。リヒテルからはロシアのタルーサ音楽祭、フランスのツールの音楽祭に招待されている。コンセルトへボウ管、ゲヴァントハウス管、フィラデルフィア管、ミュンヘン・フィル、フィルハーモニア管、BBC響、バーミンガム市響、N響などのオーケストラと共演、ウィグモア・ホール、ウィーン・コンツェルトハウス、シャトレ劇場、コンセルトヘボウなどの名門ホールでリサイタルを開催。フォルテピアノも演奏し、コンチェルト・ケルン、ベルリン古楽アカデミー等の優れたアンサンブルと定期的に共演している。 |
ルネ・ヤーコプス(カウンターテナー) ジャン=ギアン・ケラス(以下「ケラス」) 僕の家族はこのアルバムのレコーディングの2年前にプロヴァンス地方に移住しました。当時ハルモニア・ムンディの本拠地はそこから12キロほどの距離にあるサン・ミシェル・ロブセル・ヴァトワールにあって、ノートルダム・デ・ザンジュという田舎の小さな小さな教会でレコーディングをすることが多かった。そのエリアに住む音楽一家ということでうちに声がかかり、お手伝いをすることになりました。ルネ・ヤーコプスのカウンターテナーにあわせてウィリアム・クリスティがポルタティフオルガンを演奏したのですが、このオルガンはふいごで空気を送り込むタイプだったんです。僕はふいご手として4日間、楽器のわきに立って黙々と作業しました。これが最初のレコーディング。だからイザベルとサーシャ(メルニコフ)よりもだいぶ先輩です(笑)。 アレクサンドル・メルニコフ(以下「メルニコフ」) すごいな、電気が発明されるより前からやっていたなんて! ケラス チェロを始めてまだ1年だったけれど、4日間現場にいてプロデューサーとミュージシャンのやりとりを目の当たりにして刺激を受けました。実際にメインのアーティストとしてレコーディングしたのは1990年代に入ってからで、ハルモニア・ムンディが出していた若い音楽家のためのシリーズの一環として、「ブリテン:無伴奏チェロ組曲」をレコーディングしました。 イザベル・ファウスト(以下「ファウスト」) 私のハルモニア・ムンディ・デビューはジャン=ギアンのおかげなんですよ。若手音楽家シリーズに起用するヴァイオリニストを探していた彼らに私を紹介してくれた。そこで最初のバルトークのCDを録音しました。幸いそれがグラモフォン賞に選ばれたので、2枚目のアルバムとしてバルトークのほかのソナタも収録することになりました。このシリーズは若手にチャンスを与える名目のもので、1枚リリースしたからといってすぐに専属というかたちにはなりません。私の場合はこの2枚のアルバムが成功したから続けられたわけです。その後ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲の企画が出て、そこに室内楽作品をカップリングするという流れになり、サーシャとジャン=ギアンに声をかけました。この3人でピアノ三重奏を演奏したのはこのときが初めてでした。もちろんお互いに昔から知っていましたよ。ジャン=ギアンとは確か―― ケラス イザベルが17歳ぐらいのときからですね。音楽祭で知り合った。この3人が顔を合わせたのはイギリス・オクスフォードの音楽祭でした。 ファウスト ドヴォルザークのアルバムにピアノ三重奏(ヘ短調 Op.65)を入れるというアイディアはすごくしっくりきました。その後ジャン=ギアンがドヴォルザークのチェロ協奏曲を収録することになって、そこでも別のピアノ三重奏(ホ短調 《ドゥムキー》)を入れることになりました。 ケラス だってイザベルが採用したアイディアなら間違いないでしょう(笑)? ファウスト この2枚のアルバム制作を契機に共演機会が増えていきました。 メルニコフ 僕もその若手アーティストシリーズのアルバムを作る機会をもらい、スクリャービンの作品集を録音しました。イザベルから「まずはこの1枚が勝負だから頑張りなさいよ!」と気合を入れられたのを憶えています。 ファウスト 言っておいてよかった! メルニコフ その後ラ・ロック・ダンテロン・ピアノ音楽祭でのコンサートにイザベルが来てくれて、終演後にみんなでワインを飲みながら話し合っていたときに、イザベルから録音したい作品はなにかと訊かれた。そのときショスタコーヴィチの「前奏曲とフーガ」と答えたら、それが実現しました。イザベルとの「ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全集」のプロジェクトも同じころに始まりましたね。 「ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全集」はグラモフォン賞とドイツのエコー・クラシック賞に輝き、「ショスタコーヴィチ:前奏曲とフーガ全曲」はBBCミュージック・マガジン賞、ショク・ド・クラシカ、ドイツレコード批評家賞の年間賞を受賞し、さらに翌年にはBBCミュージック・マガジンの「史上最高の50選」に選出されるという、輝かしい成果を挙げた。
~スタジオとステージと~ プロの音楽家にとってレコーディングと実演は活動の両輪といえるだろう。この3人はどのような想いでそれぞれに取り組んでいるのだろうか。 ケラス 正直、レコーディングというのは自分にとって非常に難しいものです。コンサートでの演奏も負担が大きいし、重圧がかかるものですけれど、僕はそのために生きている。コンサートだから出てくる「その瞬間」の発想というのが、自分にとって大事なんです。もちろんレコーディングからは多くを学べます。でも作品をじっくり解釈して取り組み、掘り下げていってCDというかたちにするのは大変な作業ですよ。 メルニコフ 僕はジャン=ギアンとは正反対で、コンサートは大の苦手。とにかく緊張してしまってうまく弾けないから。レコーディングのほうがずっとラクだし、楽しめる。確かにアルバムには人為的な部分が多いし、その点に関しては申し訳ないと感じる部分がないわけではない。でもどれだけ手を入れても救えない録音もあるんですよ。どれとは言わないけれど、そういうサンプルを聴いてからは逆にスッキリした気分になりました。申し訳ないとかそういうレベルを超えて、諦めの境地に達した(笑)。まあそれはいいとして、録音の場合はコンサートと違って、気に入らないことやうまくいかないことがあったらやり直しができる。この点は大きい。 ファウスト ソロや小編成のときはそれでもいいけれど、オーケストラだと事情が変わってきますよね。 メルニコフ とはいえ一発勝負のプレッシャーは薄れるわけで、それはありがたいことです。たとえば2回テイクがあるとしたら、それだけでも大きな違いです。僕はソナタの第1楽章でリピートがあるときは、極力リピートを入れる。最初にうまくいかなくても次で挽回できるかもしれないから(笑)。 ファウスト 私はレコーディングもライブも両方楽しめます。そしてどちらも違う理由から好きなのです。ライブでの演奏は濃密で、それでいて寛大だと思う。ライブでは完全無欠である必要はないわけです。もちろんある意味ではそこを目指すわけですけれど。 メルニコフ この世で完全無欠を体現できる数少ない人間が言うのだから説得力がある。 ファウスト ライブ会場では電流がじかに体に流れ込んでくるような感覚があります。舞台上の音楽家と客席の人々がつながっている。これはとても大切なことで、CDからこれと同じエネルギーを感じることはできません。つまりスタジオという環境で失われてしまうものもあるわけですね。個人的にはCDであっても完璧さより大事なものがあると思うけれども、今日ではCDはパーフェクトであることが当たり前のような風潮がある。だからどうしても編集プロセスが必要になってしまいます。何しろ私たちも常にパーフェクトな演奏ができるわけではないので(笑)。 レコーディングを行ったのはベルリンのテルデックス・スタジオ。現在ハルモニア・ムンディ作品のうちかなりの割合がテルデックス・スタジオで録音されているとのことで、多くのアーティストにとって、このスタジオはある種の「ホーム」となっている。 ケラス サーシャとイザベルはベルリンに住んでいるから、テルデックス・スタジオは近いですよね。だから家で休憩してまたスタジオに行くこともできる。僕がバッハの無伴奏組曲を録音したときは、1週間かけて集中的に取り組むことになっていたから、それに適した環境をいま住んでいるフライブルクの近くで探しました。そこで見つかったのが、家から車で30分ぐらいの場所にある教会です。日中はレコーディングに専念して、終わったら家に帰って子供たちの顔を見て、ほっとしたかったんです。 イザベル スタジオ以外で録音場所を探すのは簡単なことではありません。外の雑音が入ってしまうこともあるし、寒すぎると困るし。 ケラス バッハの録音をしたのは3月で、教会はけっこう寒かった。でも暖房をつけるとノイズが入ってしまうんですね。だから録音中はオフにしなければならない。アルバムの付録DVDを見るとわかりますけれど、セーターを3枚重ねにして着ていました(笑)。
~ケーススタディ:シューマン・プロジェクト~ 王子ホールでは本年2月にシューマンのピアノ三重奏曲を3曲並べた演奏会が行われた。彼らはハルモニア・ムンディから「ヴァイオリン協奏曲&トリオ第3番」、「ピアノ協奏曲&トリオ第2番」、「チェロ協奏曲&トリオ第1番」という3枚のアルバムをリリースしているが、CDジャケットのアートワークを含めて一貫したプロジェクトとして制作されているのがよくわかる。 ファウスト この企画が持ち上がったのは3人のツアー中です。シューマンのヘ長調のトリオ(第2番)について話しているうちに、3人ともシューマンが大好きだという話になって、しかも3人ともいずれシューマンの協奏曲をレコーディングしたいという願望を持っていたことがわかりました。「だったら共通のプロジェクトとして実現して、トリオも入れるといいのでは?」という話になった。そこでパリ公演の後のディナーの席でハルモニア・ムンディの人たちにそのアイディアをプレゼンして、実現する方向に話がすすんでいったのです。 メルニコフ そのプレゼンから作品がリリースされるまでの期間は2年ほどでした。このときはコンサートで演奏して、それからレコーディングをするという理想的な流れになりました。 ケラス コンチェルトも含めて事前に実演してからレコーディングできました。1ヶ月の間に10回のコンサートをして、そのうち9回はレコーディングの前だった。 ファウスト そしてベルリンのテルデックス・スタジオでのレコーディングの直後にベルリン・フィルハーモニー・ホールで最後のコンサートができた。これは映像にも収められています。 2018年にはすでにリリースされている3枚のアルバムをまとめたデラックス・ボックスセットの発売が予定されており、こちらにはベルリンでのコンサートの模様を記録したブルーレイ・ディスクもついてくるとのこと。 ファウスト 消費者の立場から言うと、私はやはり装丁も美しくてブックレットが充実しているアルバムが欲しいですね。音だけならオンラインでも聴けるけれども、本と同じで自宅の棚に置いておきたいんです。確かにコストがかかるのでレコード会社にとっては難しいところはあるのだと思いますが。 ケラス 僕のアルバムのなかで一番成功したのは、パッケージにもかなり力を入れたバッハの無伴奏アルバムです。ただ最近では凝ったパッケージをつくる機会が減っていますね。装丁にお金をかけたからといって売り上げがあがるわけではないということなんでしょう。でもパッケージを含めて作品づくりをする価値はあると思いますよ。そこに絶対、違いはあるから。サーシャとイザベルのベートーヴェン・アルバムも素敵なデザインです。 メルニコフ 4枚組で、十字型にパッケージが開くデザインになっているんです。「一度開くともとに戻すのに時間がかかる」というお叱りの声をたくさんいただいた(笑)。クラシックリスナーのなかには、手に取って楽しめるモノとしてのCDを求める人もいるし、高品質の音を求める人もいます。少なくとも僕では聴き取れないレベルのディテールを追求するオーディオマニアだっているわけです。日本には特にそのぐらい尖った愛好家が多いですよね。ベルリンでLPショップを経営している友人がいるのですが、売り上げの8%は日本からの注文だそうですよ。
~小売の現場では~ その日本でのクラシック・ソフトを取り巻く環境はどうなっているのか、これからの展望はどうなのか、ここでしばし3人のアーティストから離れて、業界の声をご紹介したい。はじめにもともとキングレコード内部で輸入盤を扱う部門であったキングインターナショナル。1990年代前半に法人として独立し、現在ではハルモニア・ムンディやBIS、NAÏVEといったクラシック・レーベルのほかにジャズのレーベルも扱っている。同社の担当者はコンサート会場で即売やサイン会があるときはそのサポートをするなど、会場との連携にも積極的だ。CDショップが軒並み路面店を畳み、ネット販売が主流になった現在だが、影響はあるのだろうか。 「会社としてのトータルの売上数字は、さほど変わっていません。内訳は、依然としてHMVやタワーレコード、山野楽器といったCDショップ(およびそれぞれが行っているネット通販)の売上が非常に大きく、Amazonは弊社の場合売上シェアは5%前後です。Amazonは独自のルートで直輸入盤を仕入れて販売しているというのも理由のひとつなのですが。コンサート会場での即売は、年々売上を増しており、Amazonよりもかなり大きな売上シェアとなっています。非常に大事な販売経路です」(キングインターナショナル本杉氏)。 会場での即売は同社にとって「今世紀に入ってから発展した分野のひとつ」とのこと。最近ではダウンロード販売が主流になって、CDをはじめとする物理的なソフトが淘汰されるのではという懸念もあるが、実感としてはどうなのか。 「少なくとも今の一定年齢以上のクラシックファンが購買層である限り、むしろCDを出さないとマズいという部分もあります。CDの現物を持っていたいという人々はまだまだいらっしゃる。音楽業界全体で見ても、ダウンロード購入はやや頭打ちというデータも出ています。YouTubeですとか、無料で視聴できるならばいいけれど、有料ならばいらないという人は多いみたいですね。ファンにとってはジャケットのデザインですとか、そこにサインをしてもらうですとか、音だけではない価値があるわけです」(同社宮山氏)。 付加価値という面では、来日に合わせた日本盤CDの制作だけでなく、LPやSACDを制作することもある。ファウストの「バッハ:無伴奏ソナタ&パルティータ」のLPなどは、現在かなりのプレミアがついているそうだ。次に、王子ホールの主催公演で即売を担当しているローソンHMVエンタテイメントの声をご紹介したい。同社が即売を行うようになったのは十数年前、サントリーホール主催公演での販売を打診されたのがきっかけだったという。 「ホール主催公演でいうと今はサントリーホールさんや王子ホールさんのほかにもトッパンホール、ハクジュホール、それに新しくオープンした浦安音楽ホールさんにもうかがうようになりました。会場即売は『ひとつの小さな店舗』という意識でやっています。準備はいつも2~3ヶ月前から始めて、極力コンサートでの演奏曲が収録されているアルバムを用意します。コンサートがよくて、CDが売っていて、さらにサイン会があればお客様にとっては一番良いですよね。その日の記念になりますから。ただ最近では商品を集めるのが大変だったりもします。特に輸入盤はそうで、早めにメーカーさんにお願いしていても、なかなか入ってこないときがあるのが悩みです。HMV全体の売り上げの割合としてはネットが一番ですけれども、即売も毎年すこしずつですが前年を超えています。まだまだ工夫の余地はあるし、専門性のあるスタッフを置くことでお客様のニーズに応えていきたいと考えています」(HMV松下氏)。
~スタジオとステージと(再)~ ディストリビューターであるキングインターナショナルも、小売店であるHMVも、クラシック・ソフトの販売に関してはおおむねポジティブな意識を持っていた。我らが100万ドルトリオの見解はどうだろうか。 ファウスト ヨーロッパのレコード業界を見ていると、クラシック部門だけで運営するのは簡単ではないみたいですね。レコードレーベルとアーティストの契約件数も減っています。マネジメント会社が自主レーベルを立ち上げて、コンサートを組んでそこでCDも販売するケースもみられます。みんなそれぞれに努力している。 メルニコフ CDをリリースすることが経済的に非合理的な行為になれば、当然CDは姿を消すでしょう。いまはまだCD制作のコストはそれほどではないから成り立っている。フィルムカメラと同じように、いつの間にか姿を消している可能性もある。まあ僕はそもそも悲観的な人間だからそう考えるのかもしれないけれど。 ファウスト ひとつはっきりしているのは、クラシックのコンサートはこの先も開かれるだろうということ。まずそこは安心していいと思います。それに私たちはたくさんの企画を温めています。ハルモニア・ムンディはアルバムを作って世に出していくということを諦めていないし、精力的に動いています。レコーディングを待つ作品はまだまだあるんですよ。 10月には再びこのトリオの演奏を聴くことができる。プログラムに入っているベートーヴェンのピアノ三重奏曲第6番と第7番《大公》はすでにハルモニア・ムンディからアルバムが発売されている。 ファウスト そう、だからこの機会にたくさん売らないと(笑)! 今回はピリオドセッティングで演奏するので、このCDともパーフェクトに重なります。サーシャはフォルテピアノを弾き、私たちはガット弦で弾きます。 たとえばこの先ベートーヴェンのピアノ三重奏曲を全曲録音し、ホールでチクルスを行うというような、夢のような話は実現するだろうか。 メルニコフ 可能性はゼロではありませんよ。人々がベートーヴェンに関心を持ち続け、人類が存続している限りはね! (文・構成:柴田泰正 写真:横田敦史 協力:Eアーツカンパニー、キングインターナショナル、ジャパン・アーツ、パシフィックコンサートマネジメント、ローソンHMVエンタテイメント) 【公演情報】 イザベル・ファウスト、ジャン=ギアン・ケラス&アレクサンドル・メルニコフ イザベル・ファウスト&アレクサンドル・メルニコフ |