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ファミ・アルカイ 一問一答

王子ホールマガジン Vol.51 より

イギリスのグラモフォン誌にて「ヴィオラ・ダ・ガンバを喜びの可能性に満ちた新境地へと導く」と絶賛されたファミ・アルカイは、『定番』とされる古楽作品の演奏にとどまらず、他ジャンル楽曲の編曲などを通じてこの楽器の可能性を拡げています。5月に王子ホール初リサイタルを控えた新世代ガンバ奏者の声をお聞きください――

ファミ・アルカイ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)

1976年、スペインのセビリャで生まれ、11歳までシリアで過ごす。バーゼル・スコラ・カントルムならびにスヴィッツェラ・イタリアーナ音楽院(ルガーノ)で研鑽を積み、98年にソリストとしてのキャリアを開始。2002年、アカデミア・デル・ピアチェーレを創設し、音楽監督としてヨーロッパ各地で演奏活動を展開。また兄のラミ・アルカイとレコード・レーベルALQHAI & ALQHAIを設立し、4作のCDをプロデュースしている。14年、グロッサ・レーベルでソロ・アルバム「ア・ピアチェーレ」を録音。09年以来、スペインで最も重要な古楽音楽祭、アーリー・ミュージック・フェスティヴァル・セビリャ(FeMAS)で芸術監督を務めている。

 

Q ジョルディ・サヴァールをはじめとするヴィオラ・ダ・ガンバの先駆者たちから受け継いだもののなかで、特に重要だと思うものはなんでしょうか? 現代に生きるヴィオラ・ダ・ガンバ奏者として、どんな使命を担っていると感じていますか?

ファミ・アルカイ(以下「アルカイ」) 私より前の世代のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者たちは、生涯をかけてこの楽器を復活させ、作品や奏法を掘り起こしてくれました。そのことには心から感謝しています。ジョルディ・サヴァールとはもう何年も前から共演しています。古い楽曲を書かれたばかりの作品であるかのように演奏し、自分のものとする彼のスタイルを学んだことは、私にとって特に重要な糧となっています。
 自分を含めた今の世代の使命は、技術的な面で一歩先に進むことです。サント・コロンブが自宅で弾いていたような音楽しか演奏できない、用途が限られた楽器というイメージが定着してしまっていますが、それを払拭したいと考えています。ヴィオラ・ダ・ガンバは18世紀当時の最も華やかで難しい曲を演奏できる楽器でした。ヴァイオリン奏者やチェロ奏者に比肩するだけの技術をガンバ奏者が身につけることは不可能だ――などど考える理由はどこにもないのです。

Q 他媒体のインタビューで、アルバムを制作する際は『シークエンス』を大事にしたいということをおっしゃっています。コンサートのプログラムを考える際も同様でしょうか? 5月のコンサートではどのような『流れ』を意識されていますか?

アルカイ コンサートであってもCDであっても、音楽学的な共通項だけをみて作品を並べ、オーディエンスを試験会場にいるような気分にさせるようなプログラムは好きではありません。似たようなモテットを10曲並べたプログラムなんて、コンサートとしてどうかと思いますよ。深い音楽を奏でていても、コンサートがショウであることを忘れないようにしたいものです。コンサートにおいて自分は『役者』であり、人々に様々な感情が行き交う芝居を観ているよう気分になってほしいと願っています。
 CDと実演では奏者と聴き手の関係性も集中度合いも異なるので、そこで生み出そうとする流れも当然変わってきます。コンサートではフィーリングを途切れさせないためにも休憩を入れないようにしたいですね。

Q ジョー・サトリアーニやジミ・ヘンドリクスといった『エレキギターの神』の作品までカバーなさっていますが、将来的にはさらに幅広いジャンルの音楽をヴィオラ・ダ・ガンバで演奏しようとお考えですか? 具体的に検討しているレパートリーなどがありましたらお話しください。

アルカイ 実はスタジオにエレキ・ヴィオラ・ダ・ガンバも持っているんですよ! 過去にジャズピアノのユリ・ケインとも共演しましたが、コンテンポラリー・ミュージックやポピュラー・ソングをヴィオラ・ダ・ガンバで弾くのは自然なことだと思います――16世紀スペインのガンバ奏者はそうしていたわけですし、17世紀のイギリスで書かれた手稿譜にもその傾向が見られます。ですが現在のところ、私はそれとは真逆の方向に目を向けています。具体的にはJ.S.バッハの無伴奏作品です。ヴァイオリン作品として有名な《シャコンヌ》をはじめ、様々な無伴奏曲をチェロとフルートのために編曲し、レコーディングしています。このアルバムは近日リリース予定ですのでお楽しみに。

(文・構成:柴田泰正 写真:Javier Díaz de Luna 協力:ユーラシック)

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